『あなたはきっと信じないでしょうけれど、
 わたしは幸せだったのよ』



2.

 白い鯨の夢をみた。

 仄明るいのは海面なのか、月夜の空なのか、僕には分からない。
 何処か遠くの仲間を求める鯨の声だけが、か細く響いている。
 自分の他に誰もいないなんて、信じたくないから。

「冥王星はね、わたしたちの目には見えないの。でもずっとずっと遠くから、わたしたちの星を見つめているわ。天から堕ちた、哀しい星だけれど」

  最期の吐息。

 −−−

 狭い部屋の狭いベッドで、僕は自分の両手を見つめた。求める右手と拒絶する左手。どちらも最後に探し当てたのは、君の細い首筋だった。目の前の僕の、ずっとずっと先に向けられた君の瞳は、見えないはずの堕ちた星を見つめていた。

 何もかもが夢だと信じられたら、どれほどよかったろう。

 夜が明けるのはまだまだ先だ。それまでもう一度眠ろうと思った。けれど、疲れた体とは裏腹に、僕の目はホームで拾ったちいさな箱に吸い寄せられていった。

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(フリーペーパー"Like a happy vol.5"に掲載)